20200222『21世紀の啓蒙』上 スティーブン・ピンカー

20200222『21世紀の啓蒙』上 
スティーブン・ピンカー

第七章 人口は増えても食糧事情は改善
p142
ほとんど知られていないが、急激な人口増加にもかかわらず、発展途上世界はその人口を養うに至っている。
最も顕著な例が中国で、一三億人が、一日一人当たり平均三一〇〇キロカロリー摂取できるまでになっている。アメリカでいえば連邦政府のガイドラインで「大いに活動的な若い男性」の必要量とされるカロリー量である。
またインドの一〇億人も、一日一人当たり平均二四〇〇キロカロリー摂取しており、これは「大いに活動的な若い女性」ないし「活動的な中年男性」の必要量に相当する。アフリカ大陸も二六〇〇キロカロリー、中国とインドのあいだにつけている。
p143
続いて子どもの発育不全。子どもは栄養不足になると、生涯にわたって病気がちで死亡率が高くなる。[図7-2 子どもの発育不全]によれば、ケニア、バングラデシュなど貧しい国では割合が高い(40~80%)が、この二〇年ほどで半減(30~40%)。コロンビアや中国なども少し前まで割合が高かった(40%前後)が、着実に下がっている(10~20%)。
p144
[図7-3 栄養不足人口]に先進国が含まれていないのは1970年以降ずっと五%未満で、統計学的に無視できる。発展途上世界では今でも人口の一三%が栄養不足。しかし四五年前の三五%よりずっといい。この七〇年間で、世界は人口を五〇億人増やしながら、飢餓率も減らした。
p146
飢餓は事実上アフリカ以外の国では克服された。中国、ロシア、インド、バングラデシュは「飢餓の地」というレッテルをはがされ、一九七〇年代以降はエチオピアとスーダンにしか残っていない。
p147
もちろん壊滅的な被害を出さない飢餓はいまだに存在する。先進国の低所得層とか。
二〇一一年、東アフリカ
二〇一二年、サヘル(サハラ以南)
二〇一六年、南スーダン

p150
一トンの穀物の収穫・脱穀
一九世紀中頃、二五人で丸一日。
今日、コインハーベスターで六分間。
(略)
窒素はタンパク質、DNA、葉緑素、そして生体エネルギーキャリアであるATP(アデノシン三リン酸)の主成分である。窒素原子は大気中に豊富にあるが、二原子分子で分離が難しく、そのままでは植物が吸収しにくい。解決したのはフリッツ・ハーバーとカール・ボッシュで、一九〇九年に完成したハーバーの発明を、その後ボッシュが工業化し、メタンと蒸気を使って大気中の窒素を単離してから肥料に合成する。これで肥料の大量生産が可能に。この化学肥料が、逸れまで痩せた土地に窒素を戻すために必要だった大量の鶏糞肥料に取って代わり、農作物の生産量が飛躍的に伸びた。彼らによって二七億人という人名が救われた。
したがって「(一七九八年のマルサスの)算術級数的」云々はもう忘れてよい。この一世紀で、穀物単位面積当たりの収穫量は増加し、価格は下落した。気が遠くなるほどの恵みである。現在の農作物を窒素肥料なしで栽培するとしたら、ロシアと同じくらいの面積をあらたに開拓しなければならない。
p151
続いてもう一人、一九五〇~六〇年代に大勢の命を救ったのが、ノーマン・ボーローグ。発展途上世界で「緑の革命」を成し遂げた。

p153 農業の技術革新(遺伝子組み換え技術)は不当に攻撃されている
※伝統的な環境保護団体の犯罪
遺伝子組み換え技術を使えば、これまで人間が数千年かけてようやく成し遂げたこと、そして「緑の革命」のボーローグが「気が遠くなりそうな退屈な作業」に何年も費やして成し遂げたことを、「何日」という単位で実現できる。
遺伝子組み換え技術の安全性については、何百もの研究、主要な保健・科学機関のすべて、一〇〇人以上のノーベル賞受賞者が保証してきた。それも当然で、そもそも遺伝的に改良が加えられていない作物などない。
p154
しかし伝統的な環境保護団体は、「飢餓への常習的な無関心」を保ちつづけて、遺伝子組み換え作物を人々から遠ざけようと狂信的な反対運動を行ってきた。それも富裕国の自然食愛好家だけではなく、発展途上国の貧しい農家からも遠ざけようとしてきた。
彼らは科学を知らない人々につけ込んで利用する。遺伝子に関する人々の無知については気の滅入る報告がある。一般の人々の半分が次のことを信じている。
「普通のトマトには遺伝子がないが、遺伝子組み換えトマトにはある」
「食物に挿入された遺伝子は、それを食べた人のゲノム(*1)に移動する」
「オレンジにホウレンソウの遺伝子を挿入すると、ホウレンソウ味のオレンジになる」
さらに八〇パーセントの人が、すべての食品に「DNAを含む」という表示を義務づける法律を指示しているという。
作家で環境運動家のスチュアート・ブランドは言う。
「あえて言うが、環境保護運動は遺伝子組み換えに反対することで、これまでに犯してきた他のどんな過ちよりもひどい損害を人々に与えてきた。われわれ環境運動家は人々を飢えさせた。科学の足を引っ張り、しかも環境保護運動にきわめて重要な遺伝子組み換え技術を禁じることで自らの足も引っ張ってきた」
p155
遺伝子組み換え技術に対する環境保護団体の頑なな態度によって、その技術を最も必要としている地域が致命的な打撃を受けているからだ。サハラ以南のアフリカは痩せた土壌、気まぐれな雨、港に適した湾や可航河川の不足に苦しんでいる。この地域が特殊なのは、人工肥料による土壌の回復が実現していないことだ。(*2)
すでに実用化されたものでも、アフリカ用にあらたに開発するものでもいいから、遺伝子組み換え技術を使い、加えて不耕栽培(*3)や細流灌漑(*4)といった現代技術を導入すれば、アフリカは一気に初期の「緑の革命」よりもずっと速く改善に向かい、今なお残る栄養不足問題も解消されるはずである。

(*1)ゲノムとは、遺伝子(gene)と染色体( chromosome)から合成された言葉で、DNAのすべての遺伝情報のこと。
(*2)痩せゆく土壌と弱体化する農作物──食料供給の危機に立ち向かう研究者たち https://wired.jp/2019/10/08/food-crisis-soil-grains/
(*3)耕さない農法。省力化や土壌流出防止などの利点がある。
(*4)配水管を農地にめぐらし根のそばにだけゆっくり水や肥料を送る。水や肥料が節約できる。
※質問 化学肥料を使うと土壌が痩せるのか?
http://agrin.jp/hp/q_and_a/kagaku_taihi.htm

第一〇章 環境問題は解決できる問題だ
p230
エコモダニズム
一、ある程度の環境汚染は避けられないと理解するところから始まる。
p232
二、工業化が人類に利益をもたらしていることをきちんと理解する。工業化によって、数十億人の食糧がまかなわれ、寿命は二倍になり、極度の貧困も減少した。機械が人力に代わったことで、奴隷制度が終わり、女性は解放され、子どもは教育を受けやすくなった(第7,15,17章)。夜に本を読めるのも、好きなところに住めるのも、冬に暖かく過ごせるのも、世界の動向を見ることができるのも、人の交流が増えたのも、工業化のおかげである。環境汚染や動植物の消失による損失は、これらの恩恵と合わせて考えなくてはならない。

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