20200123『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』(上)ユヴァル・ノア・ハラリ

『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』(上)ユヴァル・ノア・ハラリ
p9
人類の課題は何千年も変わらなかった。飢饉と疫病と戦争である。
※餓死、病死、戦死。つまり、死。
p15
飢饉について。二〇一四年、太り過ぎの人は二一億人を超え、栄養不良の人は八億五千万人である。
p20
疫病について。過去数十年間に(略)世界の小児死亡率は史上最低を記録しており、成人までに亡くなる子供の割合は五パーセントに満たない。先進国では一パーセントを切っている。
p29
戦争について。二〇一〇年には肥満とその関連病でおよそ三〇〇万人が亡くなった。テロリストに殺された人は、世界で七六九七人で、そのほとんどが開発途上国の人だ。
p30
飢饉と疫病と戦争は、この先も犠牲者を出し続けるだろう。しかし、もはや、人類にとって不可避の悲劇ではなく、対処可能な課題になった。飢饉と疫病と戦争を過小評価するわけではない。心配するのはやめるべきだ、と言っているのでもない。その反対だ。(略)二〇世紀に成し遂げたことを思うと、私たちの力をもってすれば、飢饉と疫病と戦争の状況を改善し、苦しみをさらに減らすことは可能なのだ。
p31
では二一世紀の課題は?
一つは、人類と地球全体を、私たちの力による危険から守ることだ。私たちが飢饉と疫病と戦争を抑え込めたのは、経済成長に多くを負う。おかげで、食糧・医療・エネルギー・原料を手に入れられた。しかし、その成長が、地球の生態系の安定を揺るがしている。環境汚染・地球温暖化・気候変動について、ほとんどの国は何もしていないに等しい。経済成長と生態系の安定のどちらかを選ぶとき、政治家やCEOや有権者は成長を選ぶ。だが二一世紀には態度を改めなければならない。
p32
二つには、さらに大胆な目標である。人類は、過去の記録や現在の価値観を考えると、「不死と幸福と神性」を目標にするだろう。飢饉と疫病と戦争による死を減らせたから、今度は老化と死の克復に向かうだろう。飢饉と疫病と戦争による苦しみから救い出せたので、今度ははっきりと幸福にすることに向かうだろう。人類を残酷な生存競争から救い出せたので、今度は人間を神にアップグレードするだろう。ホモ・サピエンスはホモ・デウスを目指すだろう。
〔訳註「デウス」は「神」の意〕

p36
現代科学の最重要事業は死を打ち負かし、永遠の若さを人間に授けることである、と明言する科学者が、まだ少数派ながら増えている。
老年学者オーブリー・デグレイと、博学の発明家レイ・カーツワイル。カーツワイルはアメリカ国家技術賞の一九九九年の受賞者。二〇一二年にグーグルのエンジニアリング部門ディレクターに任命され、グーグルはその一年後「死を解決すること」を使命として表明するキャリコという子会社を設立。
ビル・マリス。グーグルが二〇〇九年、やはり不死の実現を心から信じる彼をグーグル・ベンチャーズのCEO として採用。マリスは二〇一五年一月のインタビューで「五〇〇歳まで生きることは可能かと今日訊かれたら、私の答えはイエスです」と答えている。マリスのグーグル・ベンチャーズは二〇億ドルのポートフォリオの三六パーセントを生命科学のスタートアップ企業に投資。そのなかには、野心的な寿命延長プロジェクトを手がける企業もいくつか含まれている。マリスはなぜ死と戦うのか。「死ぬより生きている方がいいからです」とマリスは言う。
ピーター・ティール。オンライン決済サービス会社ペイパルの共同創業者。彼は最近、自分が永遠に生きることを目指しているのを告白した。彼の言葉は真剣に受け止める必要がある。シリコンバレーでも有数の成功を収めている、影響の大きい起業家で、個人資産は二二億ドルと推定されている。
先行きは見えている。社会経済的な平等は流行遅れになり、不死がもてはやされるだろう。

p38
カーツワイルとデグレイは楽観的で、二〇五〇年に健康な身体と資金があれば誰でもが、死を一〇年単位で先延ばしし、不死を狙って成功する可能性があると言う。
p40
私の見るところでは、二一世紀中に永遠の若さを手に入れるのは時期尚早であろう。

p69
ますます多くの人や組織、企業、政府が「不死、幸福、神のような力」の探求を真剣に受け止めている。保険会社、年金基金、医療制度、財務省などは、平均寿命の延びに呆然。人々は予想よりはるかに長生きしており、年金や医療を払えない。
p70
経済成長が止まれば、粉々に砕ける。だから資本主義は不死と幸福と神のような力を追求せよと私たちを促す。

p80
歴史の研究は、私たちが普通なら考えない可能性に気づくようにすることが目標だ。歴史学者が過去を研究するのは、過去を繰り返すためではなく、過去から解放されるためだ。
私たちは一人残らず、特定の歴史的現実の中に生まれ、特定のルールや価値観に支配され、特定の政治制度に支配されている。そして、この現実を当たり前と考え、それが自然で必然で不変だと思い込んでいる。私たちの世界が偶然の連鎖で生まれたことを忘れている。歴史が私たちのテクノロジーや政治や社会だけでなく、思考や恐れや夢までもつくったことを忘れている。過去の冷たい手が先祖の墓から伸びてきて、私たちの首根っこをつかみ、視線をたった一つの未来に向けさせる。私たちは生まれた瞬間からその手につかまれているので、それが自分というものの自然で逃げようのない部分であると思い込んでいる。身を振りほどき、それ以外の未来を描こうとはしない。
歴史を学ぶ目的は、私たちを押さえつける過去の手から逃れることにある。歴史を学べば、私たちはあちらへ、こちらへと顔を向け、祖先には想像できなかった可能性や、あるいは、祖先が私たちに想像してほしくなかった可能性に気づき始める。私たちをここまで導いてきた偶然の連鎖を目にすれば、自分の考えや夢がどのようにつくられたかに気づき、違う考えや夢をもてるようになる。歴史を学べば、何を選ぶべきかはわからないだろう。しかし、少なくとも、選択肢は増える。

p87
人命は神聖であるという信念のせいで、私たちは「このどこが神聖なのか?」と問わざるをえない哀れな状態にいたるまで人を生き続けさせる。

第2章 人新世
p93
二〇万頭のオオカミ、四億頭の犬。四万頭のライオン、六億頭の猫。九〇万頭のアフリカスイギュウ、一五億頭の家畜の牛。五千万羽のペンギン、二百億羽のニワトリ。今日、世界の大型動物(*)の九割以上が、人間か家畜。
(*)体重が数キログラムを超えるもの。

p101
アニミズムは人間も動物の一種にすぎないと考える。しかし、聖書によれば、人間は無類の被造物で、人間の中に獣性を認めることは神の否定になる。近代の人間は、自分たちは本当に爬虫類から進化したことを発見したとき、神に反逆し、神の言葉に耳を傾けるのをやめた。神の存在を信じることさえなくなった。

※家畜と人間=人間と神=人間とAI

p112
人間(哺乳類なども)は、感覚と情動と欲望のアルゴリズムである。個体保存(食欲)や種の保存(色欲)のアルゴリズム。
※感覚=五識、情動=喜怒哀楽、欲望=煩悩。アルゴリズム=プログラミング(アプリ)。つまり、人間は機械(PC)である。超次元の「魂」などない。

p113
母親の愛情と母子間の強い絆があらゆる哺乳動物の特徴。科学者がこれを認めるまでには長い年月がかかった。心理学者が、人間の親子の間の情動的絆の重要性をさえ疑っていたのは、それほど前のことではない。二〇世紀前半には、フロイト理論の影響があったにもかかわらず(※フロイト=情動的絆肯定派?)、支配的だった行動主義学派は、「親子関係は物質的フィードバックによって形作られる。子供が必要としているのは食べ物と住み処と医療である。子供が親と絆を結ぶのは、こうした物質的必要性を親が満たすからにすぎない」と主張した。
思いやりやキスや抱擁を求める子供は「甘やかされている」と考えられた。親に抱き締められたりキスされたりした子供は、愛情に飢えた、利己的で自信のない大人に育つと、保育の専門家は警告した。
※それが一九二〇年代から。とんでもない間違いだった。
p114
一九五〇年代と六〇年代になってようやく、行動主義の理論が捨てられ、情動的欲求が重要であることが認められた。心理学者のハリー・ハーロウは有名な実験を行なった。サルの赤ん坊を誕生直後に母親から引き離し、狭いケージの中に隔離した。次の二つを用意した。哺乳瓶を取りつけた、母親代わりの針金の人形。哺乳瓶のついていない、柔らかな布で覆われた人形。どちらかを選ばせると、サルの赤ん坊は、授乳してくれないが、柔らかな布をまとった代理母に懸命にしがみついた。
哺乳動物は食べ物だけでは生きられない。彼らには情動的絆も必要である。何百万年にも及ぶ進化によって、サルは情動的絆作りに対する圧倒的な欲求を、あらかじめ(プログラムとして)組み込まれている。
p112
しかし、相手が他の哺乳動物となると、私たちはこの事実を相変わらず否定し続ける。(※あるいは知らんぷり)ハリー・ハーロウが数百頭のサルにしたことを、食肉産業と酪農産業は毎年何十億頭もの動物に対してしている。

p122
農業革命は宗教革命でもあった。
※アニミズム(動物も人間も平等)は廃れた。
新しい種類の経済的関係が、動物の残酷な利用を正当化する新しい種類の宗教(キリスト教など)ともに現れた。(略)
牛とニワトリで止まることはめったになかった。農耕社会の支配者は、さまざまな階級の人々を資産のように扱い始めた。古代エジプトや聖書時代のイスラエルや中世(※?)の中国は、わずかな違反や罪で、人を奴隷にしたり、拷問にかけたり、死刑にしたりした。農場経営について農民は牛やニワトリに相談しなかった。同じように、王国の管理について、支配者は農民に意見など求めなかった。王国(民族集団や宗教的コミュニティ)どうしが衝突したときには、しばしば双方が相手の人間性を剥奪した。「他者」を人間より下等の獣として描くことが、彼らをそのように扱うことに向けての第一歩だった。
こうして農場は新しい社会の原型になった。登場キャラは次の通り。
一、うぬぼれた主人
二、搾取するのがふさわしい劣等人種
三、絶滅させる機が熟した野生動物
四、役柄の割り当てに祝福を与える神

p123
そして科学革命の間に、人類は神々まで黙らせた。世界は今や、ワンマン・ショーになった。科学(物理と化学と生物学)の無言の法則を解読した人類は、今やそれらを好き勝手に操っている。
p125
農業革命は「神」の宗教を生み出した。科学革命は「人間=神」の宗教を生み出した。自由主義、共産主義、ナチズムといった人間至上主義の宗教。基本的な考えは、「この宇宙で起こることはすべて、ホモ・サピエンスへの影響に即して善悪が決まる」。
有神論は神の名において伝統的な農耕を正当化した。人間至上主義は人間の名において現代の工場式農業を正当化した。工場式農業は動物には真の関心をまったく持たない。

p128 第3章 人間の輝き
p129
人間特有の輝きとは何なのか?(※ある?)
伝統的な一神教なら、サピエンスだけが不滅の魂を持っていると答える。
ところが、最新の科学的発見はみな、この神話をきっぱりと否定している。
※スウェーデンボルグのいう「照応」を受け入れるかどうかで、魂の有無は変わる。要するに霊界の結果が自然界というような異次元ワールドを認めるか否か。これは科学の範疇外。ブラックホールの向こう側やビッグバン以前は科学では扱えない(?)。

p130
ブタと違ってサピエンスには魂があるという科学的証拠は皆無なのだ。
生命科学者たちが魂の存在を疑っているのは、証拠がないからだけではなく、魂という考えそのものが、進化の最も根本的な原理に反するからでもある。
二〇一二年のあるギャラップ調査「ホモ・サピエンスの進化について」
(一)アメリカ人
①自然選択で進化 一五%
②神が何百万年の進化を演出 三二%
③聖書の通り 四六%
(二)アメリカ人 学士号を持つ大学卒業生
①一四%

③四六%
(三)アメリカ人 修士号や博士号を持つ人
①二九%

③二五%
※マジか?
p131
進化論はなぜ異議を招くか? 相対性理論や量子力学を気にする人など誰もいないのに。進化論は適者生存の原理に基づく。明快で単純だ。相対性理論と量子力学は、「時間と空間は歪められる」「無から何かが生まれる」「猫が生きていると同時に死んでいる」などと主張する。この理論は私たちの大切な信念には関わりがない。しかし、ダーウィンは私たちから「魂」を奪った。

p135
最新の理論は、感覚と情動は生化学的なデータ処理アルゴリズムであるとも主張している。じつは人間の場合でさえ、感覚と情動の脳回路の多くは、完全に無意識にデータを処理し、行動を起こせる。だから、感覚や情動の陰には、主観的経験ではなく無意識のアルゴリズムだけが潜んでいるのかもしれない。
この説を支持したのが、近代哲学を父デカルトだ。人間以外の動物はみな、自動機械である、とデカルトは一七世紀に主張した。

p137
率直に言って、心と意識について科学にわかっていることは驚くほど少ない。脳内の生化学的反応と電流の寄せ集めが、どのようにして苦痛や怒りや愛情の主観的経験を生み出すのかは、誰にもまったく想像がつかない。

p142
哲学者たちがまとめた質問。
「脳で起こらないことで、心で起こることは何か?」
もし、ニューロンのネットワークで起こること以外、心の中で起こることが何もなければ、私たちはなぜ心を必要とするのか?
逆に、もしニューロンネットワークで起こること以上のことが心で起こっているのなら、それはどこで起こっているのか?
以前は関係なかった二つの記憶の融合はどこで起こるのか?
現在の仮説によれば、それは五次元世界のような場所では断じて起こらないらしい。
※なぜそれがわかる? スウェーデンボルグの照応すなわち異次元世界の設定以外、魂論者には逃げ道がない。ゆえに「断じて異次元世界で起こっているのではない」という意見の根拠が知りたい。

それはこれまで結びついていなかった二つのニューロンが突然互いに信号を発し合い始めた場所で起こる。※異次元世界ではなく。
だが、もしそうなら、二つのニューロンが結合するという物理的な出来事に加えて、なぜ「記憶の意識的経験」までが必要なのか?
今日では、生き物はアルゴリズムであり、アルゴリズムは数式で表せるというのが定説だ。
p144
しかし、これまでのところ、「記憶の意識的経験(主観的経験)」を含むアルゴリズムはまったく知られていない。
二〇一六年、グーグルなどいくつかの企業が自動運転車を造っており、そのアルゴリズムは毎秒何百万もの計算を行なう。まったく恐れ(主観的経験)を感じることなしに。他の多くのコンピュータープログラムも、どれ一つとして意識を発達させてはいないし、何一つ感じたり望んだりしない。

p146
死後も魂が存在し続けるという話はとても興味深く、慰めとなるので、喜んで信じたい気もするが、それが真実であるという直接の証拠を私は一つも持っていない。
だが意識(痛みや疑いといった主観的感情)は絶えず経験しているので、その存在は否定しようがない。
※ならばこの意識をできるだけ楽しませようではないか。

p151
チューリングテストに合格したコンピューターは、本当に心(意識)を持っているものとして扱われるべきである、ということになる。真の証明ではない。しかし、自分のもの以外にも心(意識)があると認めるのは、社会的あるいは法的な慣習にすぎないのだ。
p152
チューリングテストは一九五〇年に、コンピューター時代の創始者の一人であるイギリスの数学者アラン・チューリングが考案した。彼は同性愛者であったが、当時のイギリスでは同性愛は違法だった。一九五二年、チューリングは同性愛行為で有罪とされ、化学的去勢処置を強制的に受けさせられた。二年後、彼は自殺した。チューリングテストは、一九五〇年代のイギリスですべての同性愛者が日常的に受けざるをえなかったテスト、すなわち、異性愛者として世間の目をだまし通せるかというテストの焼き直しにすぎなかった。チューリングは自身の経験から知っていた。「本当はどういう人間なのかは関係ない」ことを。肝心なのは「他者に自分がどう思われているか」だけなのだと。チューリングによれば「コンピューターは将来、一九五〇年代の同性愛者と同じようになる」という。コンピューターに本当に意識があるかどうかは関係ない。肝心なのは人々がどう思うかだけなのだ。

p161
私たち人間は、本質的にはラットや犬、イルカ、チンパンジーと違わない。魂を持たない。意識を持っていて、感覚と情動の複雑な世界を持っている。

p164
たいていの研究では、道具の製作や知能が人類の台頭に重要だったとされている。しかし、人類は一〇〇万年前にはすでに、当時の動物の中で最も知能が高く、道具製作のチャンピオンでもあったはずなのに、実際には相変わらず取るに足りない生き物でしかなく、周囲の生態系にはほとんど影響を及ぼしていなかった。何か重要な特徴を明らかに欠いていたのだ。
p166
「無数の見知らぬ相手ととても柔軟に協力できる」のはサピエンスだけだ。私たちが地球を支配しているのはなぜか。魂や心(意識)ではなく、この能力で説明できる。
歴史を通して、協力できた軍隊が、まとまりのない大軍を楽々と打ち破り、協力できたエリート層が無秩序な大衆を支配してきた。
一九一四年、ロシアの三百万のエリート層(貴族、役人、実業家)が、一億八千万の農民と労働者を支配していた。エリート層は、底辺の一億八千万人がけっして協力することを覚えないことに、力の大半を使っていた。
一九一七年、共産党はわずか二万三千人だった。にもかかわらず、共産党員は協力して、適切な時に適切な場所に身をおいて、広大なロシア帝国を支配できた。ロシアの支配権が皇帝の弱った手と、革命指導者ケレンスキーの臨時政府の、これまた危うい手からするりと抜け落ちたとき、共産党員たちは一致協力して機敏にそれをつかみ取り、絶対に権力をはなさなかった。
※ここからp171まで一九八九年ルーマニア革命の実例。読ませる。おもしろい。
共産党員は効果的な組織のおかげで七〇年以上も権力の座にとどまっていたが、ついに組織にひびが入り、倒れたのは八〇年代末であった。
一九八九年一二月二一日、ルーマニアの共産主義独裁者ニコラエ・チャウシェスクは、首都ブカレストで集会を開いた。その数か月前に、ソ連が東欧の共産主義国への支援を打ち切り、ベルリンの壁が崩壊し、ポーランド、東ドイツ、ハンガリー、ブルガリア、チェコスロバキアを革命が起こった。そしてわずか数日前の一二月一六日から一七日にかけてルーマニアの都市ティミショアラではチャウシェスクに対する暴動が起こっていた。だが、一九六五年以来ルーマニアを支配してきたチャウシェスクは、この激動に耐えられると信じていた。彼はそれをルーマニア国民と全世界に証明するために集会を開いたのだ。八万人を集め、ルーマニアの全国民にラジオやテレビの中継を視聴するよう指示した。
YouTubeで「チャウシェスク 最後の演説」を検索すれば、歴史的瞬間が見られる。一つの世界がまるごと崩壊するところが見られる。(略)
八万の人々が、毛皮の帽子を被ってバルコニーに立っている老人よりも自分たちのほうがはるかに強いと気づいたとき、共産主義国家ルーマニアという共同幻想(共同主観的現実)は崩れた。
とはいえ、権力は一般大衆には渡らなかった。ルーマニア革命では「救国戦線評議会(共産党穏健派のカムフラージュ)」にハイジャックされた。率いていたのはイオン・イリエスク。彼は大統領になり、一派は支配層(大臣、議員、銀行取締役、富豪)になり、今日までルーマニアを牛耳っている。命を危険にさらした一般大衆は残りかすで我慢するしかなかった。

p172
二〇一一年のエジプト革命も似たような運命をたどった。一九八九年にテレビがやったことを、二〇一一年にはフェイスブックとツイッターがやった。一般大衆はSNSを使って活動を調整できたので、何千何万という人が適切なタイミングで通りや広場に殺到し、ムバラク政権を倒した。しかし、デモの参加者たちは、その後の国家運営はできない。エジプトには、そのような組織は軍とムスリム同胞団の二つしかなかった。そのため、革命はまずムスリム同胞団に、最終的には軍にハイジャックされた。

ルーマニアの元共産党員とエジプトの将軍たちは、以前の独裁者やブカレストとカイロのデモ参加者たちよりも知能が高かったり、指先が器用だったりしたわけではない。彼らの強みは「柔軟な協力」にあった。彼らは一般大衆よりもうまく協力した。独裁者チャウシェスクやムバラクよりも、はるかに高い柔軟性を示した。
※なぜ協力できるのか? 言葉による嘘(共同幻想)を信じる力(あるいは信じざるをえない)を持つから。夢見る力。

p174
サピエンスが(敵対的なもの、性的なもののどちらでも)密接な関係を結べる相手は一五〇人が限度であることが、調査でわかっている。(略)一億人の国民を擁する国家は、一〇〇人から成る生活集団とは根本的に違った形で機能する。
p178
科学者たちが二つの百万人の集団に千億ドルを分ける実験をしたらどんな結果になるか。
百万もの人々全員では決定できないので、支配権を握る少数のエリート層が生まれるかもしれない。
一方のエリート層が他方のエリート層に百億ドルを提示し、九百億ドルを自分のものにしようとしたらどうなるか? 提示されたほうのエリート層がこの不公平な(1対9)提案を受け入れ、百億ドルのほとんどを横領して、スイス銀行にある自分たちの口座に送り、アメとムチの組み合わせで一般大衆の反乱が起こることを防ぐ。これはありうる。エリート層は、反体制派は厳罰に処すると脅す一方で、従順で辛抱強い人々にはあの世での永遠の報酬を約束する。これこそまさに、古代のエジプトなどで起こったことであり、今でも相変わらず世界中の数知れぬ国々で行われていることだ。

p179 意味のウェブ
人々は二つの現実しかないと思いこんでいる。
一つは客観的現実。重力の存在とか。重力を信じていても信じていなくても同じように作用する。
二つめは主観的現実。激しい頭痛がしているのに客観的な医学検査ではどこにも異常が見られない。
多くの人が神の存在やお金を信じていたら、これは私が主観的に信じていることとは言えない。だから神やお金は客観的現実だ。と、こうなる。
ところが、第三の現実がある。共同主観的な現実だ。それは個々の人間が信じている、あるいは感じていることではなく、大勢の人々のコミュニケーションに依存する。たとえば、お金(紙幣や貨幣)には客観的な価値はない。一ドル札は食べることも飲むことも身につけることもできない。にもかかわらず、何十億の人がはの価値を信じているかぎり、それを使って食べ物や飲み物やろ衣服を買える。しかし、お金の価値がなくなることは、ときおり現実に起こる。
一九八五年一一月三日、ミャンマー政府はいきなり、二〇チャット、五〇チャット、一〇〇チャット紙幣を廃止した。人々は紙幣を交換する機会をまったく与えられず、一生の蓄えが一瞬にしてただの紙の山に化けた。
p181
お金だけではない。国にも起こりうる。
一九九一年一二月八日午後二時、ヴィクスリ近くの国有の別荘で、ロシア、ウクライナ、ベラルーシの指導者がベロヴェーシ合意に署名した。それによって、あら不思議、ソ連はもはや存在しなくなった。

自分たちの価値観がただの虚構(共同主観的現実)であることは受け入れがたい。共同主観的現実は、私たちの人生に意味を与えてくれるからだ。しかし、ほとんどの人の人生には、彼らが互いに語り合う物語のネットワークの中でしか意味がない。
p182
意味は、大勢の人々が共通の物語のネットワークを織り上げたときに生み出される。教会で結婚式を挙げたり、ラマダーンに断食したり、選挙の日に投票したりする。これらはなぜ有意義に思えるのか。それは、親もそれが有意義だと考えているし、兄弟や近所の人、近くの町の人々、さらには遠い異国の人々までそう考えているからだ。人々は絶えず互いの信じていることを強くしている。それが無限ループのように今も果てしなく続いている。他の誰もが信じていることを自分も信じる以外、ほとんど選択肢がなくなる。

***
下記p166 サピエンスはなぜ協力できるのか? という答えが上の文。自分も信じるしかなくなり、そのために協力できるようになる。
p166
「無数の見知らぬ相手ととても柔軟に協力できる」のはサピエンスだけだ。私たちが地球を支配しているのはなぜか。魂や心(意識)ではなく、この能力で説明できる。
***

p182
それでも、何十年、何百年もたつうちに、意味のウェブがほどけ、それに代わって新たなウェブが織り上げられる。歴史を学ぶというのは、そうしたウェブがほどけたり、また織り上げられたりする様子を眺め、ある時代の価値観がベツノジダイニハまったく無意味になるのを理解することだ。
※すべては相対的。しかし、絶対的に求めるものは幸福のみ。できるだけ楽しい人生を。

p187 夢と虚構が支配する世界
サピエンスが世界を支配しているのは、共同主観的な意味のウェブ(法律やさまざまな力)を織り成すことができるからだ。
※要するに共同幻想論。吉本隆明。

p194
すべてが始まったのはおよそ七万年前、認知革命のおかげでサピエンスが自分の想像の中にしか存在しないものについて語りだしたときだ。祖先の霊などの物語のおかげで、何百ものサピエンスが効果的について協力できた。とはいえ、サピエンスがまだ狩猟採集民であるうちは、本当に大規模な協力はできなかった。狩猟採集では都市や王国を養えなかったからだ。
約一万二千年前に始まった農業革命は、共同主観的ネットワークの拡大を可能にした。
p195
六千年前、古代シュメールの神々は、現代のブランドや企業だった。今日、企業は資産を所有し、お金を貸し、従業員を雇い、経済的事業を始める。ウルクやラガシュやシュルッパクといった古代都市では、神々は農地や奴隷を所有し、融資をしたり、給金を払ったり、ダムや運河を建設できる法人として機能していた。
ジョンはグーグルに雇われ、メアリーはマイクロソフトではたらいているのと同じで、ある人は神エンキに雇われ、その隣人は女神イナンナに仕えていた。私たちにとってグーグルとマイクロソフトが現実味のある存在であるのに劣らず、シュメール人にとってはエンキとイナンナは現実感があった。
p196
業務取引を記憶することに苦労したことが大きな理由の一つとなって、人間の協力ネットワークは、農業革命から何千年も過ぎた後でさえ、そんなに拡大できなかった。
この障害が取り除かれたのは、シュメール人が書字と貨幣を発明した五千年前だった。
この二つは、人間の脳によるデータ処理の限界を打ち破った。そのおかげで、ナンジュウマンモノ人々から税を徴収したり、複雑な官僚制をつくったり、王国をつくることができた。

p202 紙の上に生きる
一九四〇年春、ナチスが北からフランスを侵略したときに、ユダヤ系フランス人の多くが、国を脱して南へ逃げようとした。
ゴム印で人助けをはじめとするした天使、アリスティデス・デ・ソウザ・メンデス。
p204
一九五八年から六一年、毛沢東による中国の大躍進政策。彼は中国を一気に超大国に変えようとした。毛沢東は余剰穀物を野心的投資に使うことを意図した。農業生産を二倍三倍に増やすよう命じた毛沢東の要求は、官僚制により各地の村長にまで伝えられた。地方役人ばかり恐ろしくて批判を言えず、生産高の劇的増加を報告書に捏造した。一九五八年、現実の五割増の報告書を鵜呑みにした中国政府は、武器などと引き換えに、何百トンもの米を外国に売った。結果、史上最悪の飢饉が起こり、何千万もの中国人が死んだ。
p206
書字の歴史はこの種の災難に満ちている。税務当局や教育制度、その他の官僚制を相手にした人なら誰もが知っているように、事実はほとんど関係ない。書類に書かれていることの方がはるかに重要なのである。
p208
一八八四(明治17)年、ヨーロッパの大国はベルリンに集まり、まるでパイでも切り分けるようにアフリカを分割した。二〇世紀後半、植民地が独立をはじめとする勝ち取ると、新生国家はみな、植民地時代の国境線を受け入れた。そうしなければ、果てしない戦争について陥るのではないかと恐れたからだ。しかし、今日のアフリカ諸国の問題の多くは、国境線がほとんど意味を成さないことが原因だ。ヨーロッパの官僚たちの書字の空想が、アフリカの現実と出会ったとき、現実が空想に負けたのだった。

p244
近代と現代の歴史は、科学と人間至上主義という宗教のプロセス。現代は、人間至上主義の教義を信じており、それを実行するために科学を利用する。
本書では最後に、これが崩れかけている理由と、その後釜に座るかもしれない新しい宗教を説明する。

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