国家と「私」の行方 西巻※マルクス、ダーウィン

『国家と「私」の行方 西巻』松岡正剛

第八講 はたして社会は進化しているのか

p41 マルクスとダーウィンを曲解して「歴史は発展する」「社会は進歩する」ことを大前提として、一九世紀後半には猫も杓子も考え、歯止めがなかなかかからなくなった。

一九世紀後半は、国民国家が列強となって帝国主義をめざし、アフリカを分割し、アジアを食い尽くそうとした時期。そこに社会進歩主義がそのまま加わるとどうなるか。後進国への侵略になった。「開発」「開放」「革新」の美名にして、自国の国力増強や産業の拡張を満足させるためなのに、その行為が列強のロジックとして互いに肯定されていく。ここに大問題があった。

※殺人、強盗、傷害の許可。

アフリカ分割を進めた帝国主義列強が「文明化」を掲げたのもおなじこと。

のちに「民主化」の美名で後進国に介入していった国連安保理に代表される〈新列強〉のやりかたにもあらわれている。

p42 たしかにマルクス主義は、こうした列強の暴力に対抗して、労働者や農民を中心とした強い民衆運動と結びつき、日露戦争後のロシアにロシア革命をもたらし、日清戦争後の中国に孫文の革命と、その後の毛沢東による共産主義革命をもたらした。しかし欧米列強の暴力を決してとめられなかった。それだけではない。レーニンやトロツキーのあとに登場したスターリン時代は、ソ連自体が〈ソビエト帝国主義〉になり、ソ連圏として東欧を植民地にした。

自由主義(資本主義)圏も社会主義圏も、同じで「進歩」「革新」が流行語だった。

もうひとつ。社会ダーウィニズムや進歩主義は、「優劣主義(※勝ち組負け組)」になりやすい。一九世紀後半にフランシス・ゴルトンは「優生学」を提唱した。これはメンデルの優性遺伝を人種や個人の優劣に結びつけ、そこから社会における優等力を評価し、それをもって社会や個人の向上のプログラムにつなげていく「優生運動」という差別思想に行き着いた。

とくにヴィルヘルム二世の「黄禍論」(黄色人種蔑視論)やナチスの「反ユダヤ主義」は、こうした優生運動と重なっていった。その流れから「知能指数(IQ)」の測定の流行がおこった。よくよく警戒すべき。

p43 ふと仏教と比べたくなる。

仏教は「縁起」「空」の人間観や社会観の思想。ブッダはその前提として「一切皆苦」「諸行無常」を考えた。世界はそもそも苦しくて空しいものだという大認識。

このような仏教思想からは、未来志向型の進歩主義一辺倒という考え方は出てこない。世間や人生に対して「深く醒めて観る」ことが尊重される。日本の中世では、ここから「無常」という感覚があらわれた。社会(世間)は変化するもので一定ではない。その変化を受け入れるしかない。これが無常観。

ここには「変化」を認めるものはあるが、その変化を必ずしも「進化」とはとらえない。また、親鸞のように「悪人」に注目する見方も出てきた。こういう考え方は特殊か。「あきらめ」ばかりが強いか。

p44 そうではない。仏教の社会観や人間観は二一世紀にはいっそう大事になってくる。じつは一九世紀のヨーロッパには仏教も紹介され、ショーペンハウエルは瞠目したが、多くのヨーロッパ思想はこの「厭世主義」「虚無主義」とも見える仏教に警戒を示し、その発展性のヨーロッパなさを糾弾した。けれども(略)

二〇世紀のヨーロッパの学者にも、こうした「進化なき変化」「無常」に注目した一群が登場した。カフカ、トーマス・マン、シュペングラー、ハイデガー、フーゴー・バル、トインビー、ジェイムズ・ジョイス、カミュ、コクトー、ジャコメッティ、アンドレ・マルロー、カイヨワ、アンリ・ミショー、レヴィナス、ミシェル・セール、エミール・シオランなどです。(略)

むろん、マルクスとダーウィンだけが二〇世紀の世界観を提供したわけではない。

一九〇〇年ちょうどにマックス・プランクが発見した「量子」という考え方からはじまった量子力学や、一九〇五年と一九一六年にアインシュタインが発見した相対性理論も、二〇世紀の世界観を大きく変えた。ここには、ダーウィンの「自然は連続している」という見方をいささか裏切るものがある。

自然は不連続に量子飛躍をおこしたり、時間と空間をつなげたりたたんだり、運動する座標系どうしでは計測値がいちじるしく変わったりする。こんな見方があらわれた。

そのほか、芸術価値と経済学が発見できなかった価値を結びつけようとしたジョン・ラスキンの考え方。「神は死んだ」と言ってのけたニーチェのニヒリズムの考え方。社会や男女の権利の差別をなくそうとしたフェミニズム。これらもたんなる進歩主義とは別の見方。

別の見方になっている=「インタースコア編集」がおこっている。※相互交流ということか。

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